東京高等裁判所 昭和32年(う)982号 判決
被告人 今井秀隆
〔抄 録〕
控訴趣意第二点について。
原判決が、被告人に対し、刑法第六六条、第六七条等の酌量減軽に関する規定を適用していないことは、所論のとおりであつて、所論は、右は、原判決がこれら法条の解釈適用を誤つたものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張するにより、考察するに、刑法第六六条には、犯罪の情状憫諒すべきものは酌量してその刑を減軽することを得る旨を、同法第六七条には、法律に依り刑を加重又は減軽する場合といえどもなお酌量減軽をなすことを得る旨を、それぞれ規定していること、及び右酌量減軽をすべきかどうかは、裁判官の裁量に属するが、それは、裁判官の主観的肆意を許すものではなく、客観的正義及び合目的性によつて決定されねばならないものと解すべきことは、いずれも所論のとおりであるけれども、右刑法第六六条にいわゆる「犯罪の情状憫諒すべきもの」とは、犯罪の具体的情状に照らして法律上の科刑(法定刑ないし処断刑)がその最低限をもつてしてもなお重きに失する場合をいい(昭和七年六月六日大審院判決参照)、ここに犯罪の情状とは、犯罪の客観的事情及び犯人の主観的事情であつて量刑上参酌さるべき一切のものを指すものと解すべきところ、記録に現われた本件犯罪の客観的事情及び被告人の主観的事情を総合して考察するに、本件においては、原判決の処断刑がその最低限(原判決においては、刑法第一九九条所定刑中有期懲役刑を選択し、更に自首による法律上の減軽をしているから、その処断刑の最低限は懲役一年六月である。)をもつてしてもなお重きに失するものとは到底考えられないところであるから、原判決が被告人に対し酌量減軽をしなかつたことは、まことに相当であるというべく、従つて、原判決には、この点につき所論のような判決に影響を及ぼすべき法令の解釈適用を誤つた違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
(中西 山田 石井謹)